Take blog

勉強頑張りまth

東工大 物質理工学院 材料系 H30年度(31大修) I-04 無機化学1

【1】東京工業大学大学院 物質理工学院の過去問を自身の勉強のために解いたものです。

【2】必ずしも解答を保証するものではありせん。間違いがある場合があります。

【3】過去問は各自で手に入れてください。

[A] (1)水溶液中の[Cr(H2O)6]3+と[CrO4]2-について

①[Cr(H2O)6]3+:酸化数+3/d3, [CrO4]2-:酸化数+6/d0

②[Cr(H2O)6]3+は(t2g)3(eg)0のd3電子配置よりスピン許容ではあるが、ラポルテ禁制の(内の一つである)d-d遷移であるため吸収強度は高くない。一方[CrO4]2-はd0錯体であることから電荷移動遷移(特にLMCT遷移)であり、d-d遷移と比べて強い吸収強度を持つ。

解説:

①以下に考え方を示す。

②光吸収がどのように起きるかが、吸収強度に影響する。各遷移について示す。

スピン許容:電子スピンの向きを変えずとも遷移できる(制約を受けない)状態にあること。一方、電子スピンの向きを変える必要がある場合、スピン禁制という。

※スピン禁制の例:八面体でのd-d遷移において低エネルギーのt2g軌道から高エネルギーのeg軌道に対して遷移が起きるとき、既にeg軌道に電子が収容されている場合。

=遷移して上がってきた電子は対を作る必要性からスピンの向きを逆転させなければならない(制約を受ける)ことがある。この状態をスピン禁制という。

スピン許容:d3八面体錯体の例, スピン禁制:d5八面体, 高スピン錯体の例

ラポルテ禁制:対称中心を持つ分子(八面体錯体など)において、s-s, p-p, d-dのように同じ軌道(対称性がかわらない軌道)に対して遷移が起こる場合に適用され、中程度の吸収強度を持つ。

※四面体錯体は対称中心を持たないため適用不可、より強い吸収を持つようになる。

電荷移動遷移(CT遷移)…配位子Lから中心金属M、あるいはMからLなど異なる原子間での電子移動を伴う遷移。d0では中心金属d軌道に電子がないことを表しているため、遷移ではLからMへと電子移動する。
吸収の強さ:スピン禁制<ラポルテ禁制<ラポルテ許容<電荷移動遷移

参考文献

・山口 佳隆, 金属錯体の形と色, (2017)

弘前大学HP, 光を吸収すると?, Accessed:2022/05/27

 

[A] (2)炭素とケイ素に関する問

①以下に示す。

②a)下図に示す。b)CO2共有結合エンタルピーはO=C=Oが1612 [kJ/mol]、網目構造が1436 [kJ/mol]であるためO=C=O構造の方が安定する。一方でSiO2はO=Si=Oが1284 [kJ/mol]、網目構造が1864 [kJ/mol]であるため網目構造の方が安定する。状態に関して、CO2は分子間力しかもたないため、室温では固体を維持できず気体となり、SiO2は共有結合をもつため固体を維持できる。

解説:

①解答のとおり

②a)以下に理由を示す。

・CO2分子の構造予測はルイス構造を記述するとわかりやすい。VSEPR則に則り考える。結果CO2はAX2E0構造であることから直線型(sp混成軌道)。

※A:中心金属, X:配位子, E:中心原子を取り囲む孤立電子対の数

・SiO2は(2)b)の解答が理由。

※SiO2は共有結晶の組成式(Si:O=1:2)であって分子式でないことに注意。図にはないが、SiO4四面体の頂点にあるO原子の先にはSi原子がおり、O原子は2つのSi原子でシェア(半分こに)されている。一つのSi原子に4つのO原子が結合するので、正味O原子は2個である。つまり組成式はSiO2。

②b)共有結合エンタルピーとは名の通り共有結合の強さを表す。従って大きい値である程結合が切れづらく、安定であることが推測できる。表の共有結合エンタルピーを用いて各構造の共有結合エンタルピーを計算し、安定性を比較する。

参考文献

・技術情報館SEKIGIN, 物質の構造, Accessed:2021/06/23

・進研ゼミHP, SiO2とSiO4の違い, Accessed:2021/06/26

 

[B] (1) PtCl2(NH3)2の組成を持つ、異性体関係の白金錯体A~Dの構造式推定

解説:

A:1,2-ジアミノエタン(en)という二座配位子と反応することから、白金触媒のcis体が至適である。PtCl2(NH3)2が持つ2つの-NH3とenが置換反応を起こす。

※Aの構造はシスプラチンといい、反応生成物Dと同様、抗腫瘍活性(腫瘍の増殖を抑制する)がある。

B:1,2-ジアミノエタン(en)という二座配位子と反応しなかったとある。trans体のPtCl2(NH3)2だと-NH3どうしが遠すぎてenが配位できない。

C:問題文通り、イオン対を作図する。イオンの価数については、2つのPtにNH3(中性配位子)×4とCl-(アニオン性配位子)×4が配位しているのでPtの価数をxとして以下のように計算する。

2x+0×4+(-1)×4=0   →   x=+2

Ptが2+なので図のようなイオン対となる。この塩はMagnus' green saltと呼ばれ、一次元構造を取る面白い材料。

D:Aの解説と同様。

参考文献:静岡県立大学HP, 白金錯体の開発, Accessed:2022/05/28

 

[B] (2)カルボニル錯体に関する選択穴埋め問題

①ア)0, イ)三方両錐, ウ)-2, エ)18, オ)四面体

②各錯体は配位子COによるπ逆供与によってC≡O結合が弱く(長く)なるが、中心金属に電子供与性配位子(PPH3 etc.)が配位している[Fe(CO)3(PPh3)2]の方がπ逆供与の効果が強く、C≡O結合はさらに弱くなる。伸縮振動数は結合が強い程大きくなるので、[Fe(CO)5]の方が伸縮振動数が大きい。

③生成物を下図に示す。

解説:

①以下に解説を示す

ア):-COは中性配位子であるので、Feは0価。

イ):Feは8族の元素であり、かつ0価であるのでd電子数は8である。

VSEPR則において[Fe(CO)5]はAX5E0であるため三方両錐形。

※5配位錯体の構造には主に三方両錐形と四角錐形があり、混成軌道は前者がsp3dz2 , 後者がsp3dx2-y2である。これらの構造はエネルギー的にほとんど差がなく両方の構造を取るもの([Na(CN)5]3-など)もあるため、構造の推定が困難。主な奴の構造は覚えておくのもいいかもしれない。

ウ):Na2[Fe(CO)4]におけるFeの価数はNa22+ [Fe(CO)4]2-とみると分かりやすく、中性配位子COは価数に関係ないのでFe(-2)となる。

エ):Feは8族の元素であり、かつ-2価であるのでd電子数は10。錯体の価電子数は電子対供与体法を用いて中心金属の10個と配位子の2×4で18電子。

オ):4配位においてd10錯体はsp3混成軌道しか取り得ないので四面体構造。

※四配位錯体には四面体構造を取るsp3, sd3混成軌道と、平面四角構造を取るsp2d混成軌道があるが、d10である場合、中心金属d電子がd軌道に10個収容されなければならないので、d軌道はまるまる5個残っている必要がある。したがって混成軌道にd軌道を含まないsp3混成軌道である。

②配位子C≡Oはπ受容性を持つため、π逆供与(中心金属から配位子π*軌道へd電子が供与されること)が起き、中心金属との結合強さ(長さ)が変わる。つまり振動数も変わる。従ってπ逆供与の効果の強弱を比較することで解を導く。
・π逆供与はM→Lへの供与なのでMに電子供与質が付いているとより電子を送りやすくなり、π逆供与が強くなる。=M-C結合が強く短くなる。

・π逆供与が大きく、M-C結合が強くなるほど、-COのC≡O結合は弱く長くなる。
・CO伸縮振動数はC≡Oが弱くなるほど小さくなる。=π逆供与が強い程振動数が小さくなる。

③アルキル錯体ができるので、アルキル基(-R)の位置に注意して幾何異性体を作図する。

参考文献:名古屋大学, 赤外分光法の基本原理, Accessed:2021/07/28