東工大 物質理工学院 材料系 H29年度(H30年度用想定問題) II-05 無機化学
【1】東京工業大学大学院 物質理工学院の過去問を自身の勉強のために解いたものです。
【2】必ずしも解答を保証するものではありせん。間違いがある場合があります。
【3】過去問は各自で手に入れてください。
- (1) 14族元素である炭素やケイ素、鉛などに関する穴埋め問題
- (2)単体で互いに原子配列が異なる物質の呼称と炭素における同素体
- (3)ダイヤモンドにおける単位格子中の原子数、密度の計算
- (4)グラファイトからダイアモンドを製造する条件
- (5)グラファイトにイオンが入り、層間方向に対応する面間隔dが広がる時の回折角の変化
- (6)標準状態におけるCとSiの二酸化物の構造が異なる理由
- (7)太陽電池の原理とバンドギャップ(bg)を狭めることによる効果
- (8)鉛蓄電池の放電反応式と可逆電池としての起電力を求めよ
(1) 14族元素である炭素やケイ素、鉛などに関する穴埋め問題
①sp3混成, ②高い, ③グラフェン, ④sp2混成, ⑤3, ⑥π, ⑦カテネーション, ⑧半導体
解説:
①問題に与えられた図をみるとダイヤモンドの配位数は4で正四面体構造が見て取れる。このことからsp3混成軌道(s,p×3による4つの等価な軌道)を形成している。
炭素Cは原子番号6であり、電子配置「(1s)2(2s)2(2p)2」もしくは電子殻の配置「K2L4」から価電子を4つ(4本の手を)持つ。この4本の手を全てσ結合に使うのがダイヤモンドである。sp3混成軌道はσ結合を形成する電子対どうしの反発により、4配位において空間的に最も遠ざかる四面体構造を取る。
※σ結合:二つの核を結ぶ直線に対して円筒状の対称性を持ち、結合軸周りの軌道角運動量0の結合。
②sp3混成軌道はCの価電子全てを結合につかうため、電子が移動しにくい。
③名称は覚えるしかない。炭素のシート(平面的な構造)がキーワード。
④平面がキーワード。sp2混成軌道は1つのs軌道と2つのp軌道(px, py)を混成して得られる3つの等価な結合である。電気的な反発を抑えるために結合角120°でかつ平面構造を取る。
⑤sp2混成軌道で3つの炭素Cとつながっているため、最近接原子の数は3個。
⑥sp2混成軌道の形成に使われなかったpz軌道(Z軸方向に広がるp軌道)どうしの結合は、原子核を結ぶ軸を180°回転させると元に戻る1単位の軌道角運動量を持つπ結合である。
⑦カテネーションは同種元素の原子が長鎖状に結合することを指す用語であり、炭素Cやケイ素Siの他にも硫黄SやセレンSeなど、限られた元素にのみ見られる。
炭素Cに対して、ケイ素Siではカテネーションが起こりずらいのはC-C結合やC-H結合に比べて、Si-Si結合の結合エンタルピーが弱いためである。
⑧p型, n型などのキーワードより連想は容易。
p型半導体:アクセプタ原子を添加→正孔がキャリアとなる。
n型半導体:ドナー原子を添加→電子がキャリアとなる。
(2)単体で互いに原子配列が異なる物質の呼称と炭素における同素体
解説:
各炭素の同素体の構造、性質を示す。
※同位体:原子核中の陽子数は同じだが中性子数が異なる核種を互いに同位体という。
参考文献:技術情報館SEKIGIN, 物質の構造, Accessed:2021/06/23
(3)ダイヤモンドにおける単位格子中の原子数、密度の計算
原子数:8, 密度:3.42 g/cm3
解説:
ダイヤモンドの単位格子は下図のように見ることができ、
「頂点の原子数+面中心の原子数+丸ごと入っている原子=単位格子中の原子数」
(1/8)×8+(1/2)×6+4=8
と数えられる。次いで密度ρは以下のように計算できる。
じつは、ダイヤモンド構造は閃亜鉛鉱型と同じ形をしている。閃亜鉛鉱型はMX(陽性、陰性元素)を有するのに対してダイヤモンドはC一種類なので異なることに注意すること。あくまで同じなのは原子の配置。
参考文献:化学のグルメ, ダイヤモンドと黒鉛の違い(性質や構造など), Aceessed:2021/06/25
(4)グラファイトからダイアモンドを製造する条件
グラファイトとダイヤモンドのモル体積Vmは密度の大小関係からVm (dia)<Vm (gra)であることがわかる。グラファイトからダイヤへの相転移に伴うギブズエネルギー変化は∆Gm=+2.9 kJであるからdG=VdP-SdTの関係を用いて、高圧条件が必要(不安, 不完全)。
※結合状態についての言及はわかりませんでした。
解説:
1. 標準状態ではダイヤモンドになるのか
グラファイトからダイヤモンドへのギブズエネルギー変化は標準状態(25℃, 1arm)で以下のように計算できる。
dG(gra→dia)=G(dia)-G(gra)=+2.9 [kJ/mol]
dG>0であることから、標準状態において相転移は見込めないことが分かる。
2. 圧力について考える
ギブズエネルギーG=G(圧力P,温度T)であるので、温度一定の時はG(P)となる。
この時、相転移を引き起こすには平衡状態dG(gra→dia)=0となる必要があるので、そうなる圧力を計算する。
圧力変化後のブズエネルギーは温度一定のとき、上式を用いて以下のように表せる。
物質の体積が圧力によらない定数とすると次式を導くことができる。
ここで、上の式を見てわかるようにグラファイトとダイヤモンドの体積が必要である。(3)の答えと与えられた密度を用いてモル体積を計算する。
これを用いてdG(gra→dia)=0の条件は以下のようになる。
つまり高圧条件が必要。これはモル体積がグラファイトの方が大きい(密度が小さい)ためである。
(5)グラファイトにイオンが入り、層間方向に対応する面間隔dが広がる時の回折角の変化
ブラッグの式(2dsinθ=nλ)より、面間隔dが広がるとθが小さくなる。
参考文献:IBIDEN株式会社HP, X線回折法の原理, Accessed:2021/08/03
(6)標準状態におけるCとSiの二酸化物の構造が異なる理由
Siは原子半径が大きいため、π軌道の重なりがCと比べて小さい。従って多重結合を形成しづらくsp3混成軌道になり、SiO2は四面体構造を形成する。一方Cはπ軌道の重なりが大きく、多重結合を形成できるためsp混成軌道を形成し直線構造となる。
(7)太陽電池の原理とバンドギャップ(bg)を狭めることによる効果
原理:太陽電池ではpn接合で生じた空乏領域に光が当たると、電子とホールを生じ、起電力によって外部回路へと電流が流れる。
bg狭める効果:利用できる波長範囲が広がる
参考文献:Jasco HP, 太陽電池関連分析技術 バンドギャップ測定, Accessed:2022/05/25
(8)鉛蓄電池の放電反応式と可逆電池としての起電力を求めよ
放電反応式:2PbSO4+2H2O→PbO2+Pb+2H2SO4 , 起電力:2.04 [V]
解説:
1. 反応式について
2. 起電力について
放電の反応式と与えられている各物質の標準生成ギブズエネルギーより、起電力Eは以下のように計算できる。
※鉛蓄電池は放電だけでなく、充電ができる「二次電池」。ボルタ電池やダニエル電池は放電しかできないため「一次電池」。
参考文献:Try IT, 5分でわかる!鉛蓄電池の極板での反応, Accessed:2021/08/03