【無機表面化学】様々な表面と表面の緩和
【1】東京工業大学大学院 物質理工学院の授業の復習です。
【2】自身の勉強のためのものであり、間違いがある場合があります。
- 固体表面
- 1. 表面化学における表面の分類
- 2. 表面の緩和
- 2-1. 表面緩和 (surface relaxation)
- 2-2. 表面再構成 (surface reconstruction)
- 2-3. 表面欠陥 (surface defects)
固体表面
固体表面とは固相と気相(あるいは液相)の界面のことであり、バルク(固体内部)とは異なる組成や構造、物性を有することから非常に重要な部分である。
1. 表面化学における表面の分類
〇 理想表面 (ideal surface)
理想的な三次元結晶を切断して得られる、完全に規則的かつ平滑な二次元表面。理想の名の通り、表面化学を考察する上で用いられる仮想的な表面。
〇規定表面 (well defined surface)
超高真空技術などの実験的的手法によって、原子配列や化学組成などを再現性良く十分に制御された固体表面。
〇実表面 (real surface)
空気中に置かれた物質の表面で、種々の不純物が不規則に吸着している。原子配列なども乱れており、非晶質化していることもある。
2. 表面の緩和
表面では、そこで原子どうしの結合が途切れる結果、ダングリングボンド(原子の未結合手)を生じる。バルクとは異なり、一方の結合相手が存在しないため、表面の原子はバルクの原子と状態が異なっている。ダングリングボンドのエネルギーは高く、表面では以下のような現象が起きている。
2-1. 表面緩和 (surface relaxation)
二次元的な対称性(原子配列の二次元並進周期)は保ったまま、表面の原子間層距離を変化することによってエネルギーの緩和が起きる現象。
表面緩和の典型的なものは、表面に平行な原子面の間隔変化であり、金属では面内密度が低い層間距離の変化率が大きくなる傾向がある。
一般的に表面緩和は最上層の面間隔を小さくする方向に起き、表面からバルク内部へ振動するよう(下右図)に生じる。バルク内側に行くのは、原子が配位数を増やそうとするためであり、振動は層が進むにつれてバルクの値へと収束していく。
・ランプリング (rumpling)
最表面に2種類以上の原子が含まれており、単位胞内の各原子の緩和の大きさが異なる場合の表面緩和。
例としてNaClの100面の図を上に表示した。NaClの100面では陽イオンと陰イオンが交互に並んだ構造をしている。ここで、陽イオンはイオン半径が小さく分極率が小さいため、バルク内部に大きく変位する一方、陰イオンはイオン半径が大きく分極率が大きいため、バルク内部への引き付けが弱く、イオンの原子核よりも電子雲が引き込まれて安定化し、原子核の変位自体は小さくなる。
(もしくは陰イオン間で反発することで変位が小さくなるでもいい)
結果として、陽イオンと陰イオンではバルクへの変位に差が生じ、表面のイオンの位置はギザギザになる。
・バックリング (buckling)
構造緩和の電子的な起源がイオン結晶の場合はランプリングと呼ぶが、半導体の場合はバックリングという。構造はランプリングと同じようになる。GaAsのような化合物半導体で見られる。
2-2. 表面再構成 (surface reconstruction)
表面緩和と同様、エネルギー的に安定化するため、バルクの原子配列と異なる配置をとること。表面緩和とは異なり、表面再構成は表面の周期構造が変化する。
特に周期表下部の金属で起きやすく、種類や程度は温度に依存する。
再構成された表面はウッドの記法に基づいて記述されることが多い。
2-3. 表面欠陥 (surface defects)
固体表面で起きる、原子の空隙(vacancy)、気相からの原子の付加(adatom)、固体内の原子列欠損、ステップ(step, 1原子層から数原子層の段差)の形成、キンク(kink, ステップの折れ曲がりに相当する部分)などの欠陥や構造を総称して表面欠陥という。
参考文献
・中島章, 最新表面化学講座(第II講) 表面構造概論, 色材協会誌, Vol.85, No.9, p.389-394, (2012)